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業務の館 

  社会保険労務士の部屋


社会保険労務士と税理士の業務境界のあり方について 前編


1,問題提起

 以前この事務所だより2000年4月号(通巻39号)で以下のような記事を掲載したことがある(当時の記事抜粋)。


 労働保険の年度更新業務で他社のを業として行うことは、社会保険労務士法第2条第1項1号及び同条同項1号の2によって、その作成及び提出代行は社会保険労務士の業務とされている。それと労働保険事務組合も労働保険の保険料の徴収に関する法律第33条によって、労働保険年度更新業務は認められている。しかし税理士が労働保険年度更新の作成・提出代行する事は法律上正当な業務の一つなのだろうか。

 ここで税理士がよく抗弁する口実のパターンとしては「これによって報酬はもらってないので違法行為ではないという」というような事をいうのである。これは社会保険労務士法第27条には

 社会保険労務士でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第2条第1項第1号から第2号までに掲げられる事務を業としておこなってはならない。

を根拠にあげてくるのである。ではそうすれば税理士が委託先と契約するときには、大抵が税務業務に関する業務の委託契約と区別がなされていないのがほとんどであることが予想される。それでは労働保険の年度更新業務について確かに報酬を得ていないことが、委託契約上明確に立証できるのであろうか疑問に感じられてならない。そんなことは事実上していないし想定すらなされていないのが実態ではなかろうか。

 視点を変えて税理士法第2条第1項の冒頭には、

 税理士は、他人の求めに応じ、租税・・(中略)・・に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。

とあり、また同条同項第2号には、

 税務書類の作成(税務官公署に対する申告等に係る申告書、申請書、請求書、不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき、作成し、かつ税務官公署に提出する書類で大蔵省令で定めるもの(以下「申告書等」という)を作成することをいう。)

とされている。さて労働保険の年度更新の書類は税務書類にあたるか、そして提出先の労働局・労働保険徴収室及び労働基準監督署は税務官公署だろうかは、ここで改めていうまでもなく否定されるはずである。


 その次の論点としては、「中小事業主が困っているのを助けているのに何故そんなことをいうのか」ということである。挙げ句の果てには「円滑に書類の届け出ができればそれでいいのではないか」という見解も事実あった。ではそのために他士業の業務を侵害し法令に違反し、それによって事業所その他国民の利益や権利を侵しても良いのだろうか。これに対して私ははっきりと否定する。そんなことはあってはならない。

 我々社会保険労務士は、これらの業務侵害(法令違反)に対して業界全体一致団結して排除していかなければならない。また昨今の規制緩和の流れがいわれているが、これらとて一般国民の利益及び正当に権利をそこなってはならないはずだし、少なくとも労働保険社会保険諸法令・労務管理の分野においては我々社会保険労務士が一般国民の擁護者となるべきではないかと主張したい。そしてこれらの分野は社会保険労務士に任せて安心だと認識されるように、日々研鑽に励みアピールして以上のような事態を廃絶しよう。


 この4月から税理士法改正によって税理法人の設立が認められるようになり、最近一部の不心得な税理士及び税理士業界の誤った解釈により、税理士も社会保険労務士のすべての業務ができると解釈する税理士も現れ始めた。一部これらを信用した事業主がこれら誤った情報を信用して社会保険労務士との顧問契約を解除するという現象さえ聞き及んでいる。


 この原因としては、社会保険労務士法第27条に

 社会保険労務士でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第2条第1項第1号から第2号までに掲げられる事務を業としておこなってはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令に定める業務に付随しておこなう場合は、この限りでない。

とある。そしてこれを受けた形の社会保険労務士法施行令第2条には、   

 法(社会保険労務士法・・・筆者注釈)第27条ただし書の政令で定める業務は、次に掲げる業務とする。
 1,省略
 2,税理士が行う税理士法第2条第1項に規定する業務

となっている。 税理士法第2条第1項に規定する業務とは租税に関する業務と条文にはあり、ここでは租税業務に関する付随業務に税理士が行える社会保険労務士業務は限定されているはずである。

 しかしこれまで社会保険労務士業界と税理士業界相互で公式的に解釈の調整がなされたことがなく、お互いの業界で洋々な解釈がなされ誤解が生み出されていた。また現場の行政官庁(労働基準監督署 職業安定所 社会保険事務所等)においても明確な基準がないために、税理士その他無資格者による労働社会諸法令に基づく書類の受理の拒否ができないという現象さえ、実態として行われているのである。

 これらに対してこの4月に全国社会保険労務士会連合会及び全国税理士会連合会との間に、去年から数次にわたり相互の所轄行政官庁である厚生労働省 社会保険庁及び国税庁を交えた協議で、付随業務の解釈の一応の合意が成立し平成14年6月6日に両会長が覚書の形式で文書に調印することになった。次回はこの文書を紹介することとし考察等を交え紹介することにします。


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