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年次有給休暇について


 
さて 厚生労働省では毎年10月を年次有給休暇取得促進期間として、対外的周知活動行っています。そこで今回は年次有給休暇について取り上げていくことにしましょう。


1,年次有給休暇の基本について

 年次有給休暇は労働基準法第39条に定められており、雇い入れ後6箇月の間の全労働日の8割以上の出勤率があれば、最低10日間の年次有給休暇を与える必要があり、それ以後は1年毎に加算された一定日数を付与する必要があります。なお週所定労働時間が30時間未満の場合には、勤務日数に対して比例付与された日数となります(以下の表とは別に定められている)。このようにパートタイムやアルバイトにも年次有給休暇はありますので・・・。

 勤続年数 0.5年 付与日数 10日間
        1.5年         11日間
        2.5年          12日間
        3.5年          14日間
        4.5年        16日間
        5.5年         18日間
         6.5年以上      20日間

 年次有給休暇の請求権の時効は2年(労働基準法第115条)、なので、例えば雇い入れ後6箇月経過後10日間の年次有給休暇を使用しなかった場合は、1.5年目にはここで付与される11日間と合算して21日間、そしてここでも全く使用しなかった場合は、10日間は消滅し、2.5年目ではここで付与される12日間と合算して23日間・・・というようになります。

 労働者から請求されれば、正常な事業の運営に支障がある場合には年次有給休暇の時季を変更させることは可能ですが、事業主は年次有給休暇の拒否はできません。

 年次有給休暇を取得した場合の賃金は、原則は通常勤務した場合の賃金、いわゆる所定労働時間分に相当する金額です。

 年次有給休暇の利用については労働者の自由となっております。したがって原則として年次有給休暇取得のために理由を述べる必要はないのですが、労働者の任意で不利益を与えない限り、取得の際に理由を記載させる事は可能です。病気などで欠勤などを年次有給休暇に振替は差し支えありませんが、労働者の申出が前提で事業主から振替はできません。また年次有給休暇を取得した事による賃金の減額その他不利益は、労働基準法第136条により禁止されています。


2,繰越の年次有給休暇について

 年次有給休暇の時効は2年なので、付与されてから1年経過時に限って繰越ができます。 さてこの時に労働法規は労働者に優位なように解釈する傾向にあるので、誰もが繰越分を先に使ってから、該当する年に新たに付与された分を使用していく。そうすると使い残った新たに付与された分は、次の年に多く繰り越せる・・・こういうのが通常だと思われます。しかし労働者が繰越分もしくは新たに付与された分いずれかの分の指定がない場合は、事業主はどちらでも解釈できます。もし事業主が新たに付与された分として充当した場合は、繰越分は繰り越された年に請求権は消滅するので、結局労働者が取得できる有給日数の減少、年次有給休暇の抑制・・・労働基準法違反ではと思いがちですし、労使トラブルとなることもあろうかと思います。

 どちらを充当するのかは、実は労働法ではなく民法の債権債務関係の解釈が適用される事になっており、分かりやすくいうと、異なる返済時期の債権が100万円ずつ200万ある、債務者は特に指定せず150万円返済してきた、債権者は新しい方に100円、古い方に50万円返済したとしても差し支えないという考え方です。ですので先のような事業主の解釈も違法ではありません。

 ただ労使トラブルを回避するためには、一定の基準を就業規則などで定めておくなどの対応が必要になります。そうなれば新たに付与された分から充当するという規程があれば、事業主は新たに付与された分という解釈も合法的に可能となります。


3,出勤率の判断について

 さて年次有給休暇は全労働日の8割以上の出勤すれば付与されることになっています。そこでこの出勤率8割以上を判断するのには、様々な例外もあります。まず出勤したと見なされるケースとしては・・・、 

 業務上の傷病により療養のため休業した期間
 産前産後の休業期間
 育児休業および介護休業法に基づく育児休業期間
 年次有給休暇を取った日
 使用者の責によって休業した日
 看護・介護休暇日

 次に全労働日に含まないとする(分母しない)ケースは・・・、
 休日労働日
 代替休暇日
 不可抗力によって休業する日
 使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日
 休職期間
 公の職務による休暇日
 正当な争議行為で労務提供がなかった日

などがあります。


4,退職予定者と年次有給休暇について

 さて退職予定者が年次有給休暇がどっさり残っていて、退職日までの期間と年次有給休暇の日数との兼ね合いで非常に悩ましいケースがあります。労働者の申出どおりに与えてしまうと、業務の引き継ぎや残務整理などが円滑に進まないし、退職予定日までの期間への時季変更権も行使しにくいと言うケースもあろうかと思われます。しかしここでそういう理由で年次有給休暇を事業主が拒否する事もできません。ではどうしたらよいのかを下記に少し見ていきたいと思います。

 労働者に業務の引き継ぎや残務整理など円滑な業務の推進のために低姿勢に話し合う。なお就業規則に退職時に労働者に業務の引き継ぎや残務整理など義務づけ規定を定めておれば、それを説明しつつ理解が得やすい。それに違反すれば懲戒の対象になるように規定しておく。しかし常日頃の労働者のコミュニケーションがあればトラブルは発生しないと思いますが。

 原則事前の年次有給休暇の買い上げは労働基準法によって禁じられているが、この場合退職すると年次有給休暇の取得は消滅することから、残った日数に応じて買い上げすることは労働基準法違反ではないので、労働者と交渉してみる。

 ただ上記2は意外と事業主には抵抗感があるので、業務の引き継ぎや残務整理などを条件にしつつも、年次有給休暇は認める。その分だけ退職日をずらす方法もあります。ただ月をまたがったりすると、余計に社会保険料がかかったり、離職証明票の都合もあり、この辺の兼ね合いもあります。

 まあいずれにしても労働者に対して道義的配慮は必要なのでは・・・と思われます。


5,年次有給休暇の買い上げについて
 
 年次有給休暇の買い上げをしたことまたはその予約したことにより、年次有給休暇をその分減らすことは労働基準法違反となります。但し下記に該当する場合には労働基準法違反とはなりません。

 労働基準法で定められている日数以上の部分
 例えば入社後半年では10日間となっているが、20日間付与している場合は10日間については買い上げが可能。

 ・付与して2年経過して権利が消滅してしまった日数。

 退職する事で残っている日数分が行使できない日数
 ただ労働基準法違反とならないとしても、年次有給休暇の趣旨である『有給とすることで身体および精神的に休養がとれるよう法律が保障した休暇』という観点から、取得を抑制するようなことやそういう雰囲気を醸し出すのは好ましくないとされています。


6,時季変更権の行使について

 さて労働者から年次有給休暇の申出があったときに、事業主は「事業の正常な運営を妨げる」事情があれば、請求があった日を別の日に変更することができることになっています。そして「事業の正常な運営を妨げる」の解釈については、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断されるものでなければなりません。過去の判例を少し例示してみると・・・、

  「単に業務の繁忙、人員の不足というだけでは事業の正常な運営を妨げる事由となすに足らないのであって、事業の正常な運営を妨げないだけの人員配置をすることは当然の前提で、その上に事前に予測困難な突発的事由の発生等特別の事情により休暇を与えることができない場合には、時季変更権の行使が認められるものと解する」(昭51.2.5高知地裁判決 高知郵便局事件)

 なお、恒常的な要員不足により常時代替要員の確保が困難であるというような場合には、時季変更権は行使できないと解されます。(西日本ジェイアールバス事件 金沢地裁 平成8.4.18・名古屋高裁金沢支部 平10.3.16)

 使用者は、できる限り労働者が指定した時季に休暇を取ることができるように、状況に応じた配慮をすることが要請されており、代替勤務者の確保、勤務割を変更するなどの努力を行わず に、時季変更権を行使することは許されないとされています。(最高裁昭62.9.22第3小法廷判決 横手統制電話中継所事件)

 長期で連続した年休取得に対する時季変更権の行使については、使用者にある程度の裁量的判断が認められる場合もあります。(最高裁平成4.6.23第3小法廷判決 時事通信社事件)

というように時季変更権の行使は慎重に検討しながら行う必要があります。


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