社会保険 手続の現場から
さて従業員が入社しますと、健康保険・厚生年金被保険者資格取得届を行うことになります。そして入社した月と同じ月に資格の取得と喪失した場合のそれぞれの保険料について、少し面倒なことが生じてきます。なおここで注意が必要なのが末日退職・・・
事例 令和3年9月15日に入社 令和3年9月30日退職
資格喪失日は退職日の翌日→令和3年10月1日資格喪失
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保険料は前月分まで徴収 →令和3年9月分は徴収となる(1ヶ月分発生)。
ということなので、以下のような厚生年金保険料還付の対象とならないので注意しましょう。
まず1ヶ月分の健康保険と厚生年金保険の保険料は、従業員の給与から従業員負担分を控除し、日本年金機構には事業主負担分とともに納めることになります。ここで問題になるのが、在職期間が数日の場合、従業員に支払う賃金が健康保険と厚生年金保険の保険料(従業員負担分の保険料)に満たない場合は、従業員に満たない分負担していただく必要があります。
そして退職した従業員が退職後、国民年金被保険者の手続き(原則20歳以上60歳未満)を行ったことが日本年金機構で確認が取れた場合、日本年金機構から事業主宛に、厚生年金保険料還付のお知らせが郵送されるので、これが届いた場合は手続きする必要があります。手続の審査が終了すると事業主宛に、事業主負担分と退職した従業員負担分とともに還付されます。したがってこの後退職した従業員負担分の保険料は、退職した従業員に返還することになりますので、退職時に口座情報の把握と振込手数料の扱いなど準備する必要があろうかと思われます。なお還付されるのは、厚生年金保険料のみであり、健康保険料は還付されません(法令等がそうなってないため←年金事務所に確認しても、これ以上の回答はありませんでした)。
2つめの話題も健康保険・厚生年金被保険者資格取得届に関係するのですが、資格取得時に届出する報酬額は、基本給、固定的手当、通勤手当(税金と異なり保険料算定の対象となる)などの決まって支払う賃金項目の合算額とすることが通例で、時間外手当や休日手当などは予想しにくいので、参入しないことが多いと思われます。ここで資格取得時以後、結果的に時間外手当や休日手当などが多く支払いされると、毎年7月にある算定基礎届の時に、固定給などは変えていないのに2等級以上の標準報酬等級の変化が生じてしまい、かつ月額変更届の対象とはならないことになります。
年金事務所が実施する算定基礎調査の時に、調査担当官が、賃金台帳と年金事務所が把握している標準報酬月額の調査において、上記のような事例を見つけられると、
「資格取得時において、よく似た職種、もしくは事業所における平均的な時間外手当の金額も算入して標準報酬月額を決めて届出しなさい。」
などと指導されます。しかし何を持って平均的な時間外手当の金額とするか具体的ラインは示されることはないし、見積もっていた金額が結果的に低かった場合など判断に困るのが社労士として立場というのが現状です。現実問題として当方が事業主とともに調査立ち会っているケースでは、担当官と激しいやりとり行いますが、現在までのところは注意指導にとどまっています。最悪は、資格取得時に標準報酬月額の訂正で差額保険料の徴収され、被保険者が年金受給者の場合は、在職調整のやり直しということで年金の返還ということもあります。とはいっても平均的な時間外手当の算入加減で、予定よりさらに1等級引き上げてしまい、あまり強調して言いにくいところもありあります。最終的には事業主とよく打ち合わせして決める以外手立てはありません。
しかし資格取得届→資格取得後の最初の算定基礎届を経過してしまうと、よほどの届出漏れなどがない限り、大きなずれがあった場合など、当方が適切に補足説明するとあまり注目されない傾向にあるようです。
3つめの話題は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の被保険者、被扶養者になろうとする方が、健康保険被保険者証の交付を受けるまでの間に、医療機関など受診する必要がある場合、年金事務所の窓口で申請すれば、「健康保険被保険者資格証明書」が交付されます。「健康保険被保険者資格証明書」は発行日から20日間有効であり、これを医療機関などで提示すれば健康保険被保険者証のかわりとして使用できます。そして健康保険被保険者証が交付されたときには、「健康保険被保険者資格証明書」は、発行した年金事務所に返却する必要があります。
手続は、資格取得届 被扶養者異動届とともに、「健康保険被保険者資格証明書交付申請書」と添付書類とともに、年金事務所窓口に紙提出(電子申請は不可)します。実務上は年金事務所で即登録作業となるため30分程度待たされますが、「健康保険被保険者資格証明書交付申請書」はここで発行され交付されます。なお年金事務所の事務作業等の都合で翌日交付となることもあります。但し健康保険被保険者証発行に向けた手続は、年金事務所→事務センター(日本年金機構)→協会けんぽの審査→健康保険被保険者証の発行(協会けんぽが外注している業者)をへて、事業主に郵送となるため、案外と日数を要することになります。年金事務所→事務センターの間は、紙提出された書類を郵送して、事務センターで入力してから処理されることから、電子申請より3,4日程度余計に要しているようです。10日から2週間程度といったところです。
当事務所においては、早く健康保険被保険者証の交付を受けたいというケースの対応は、必要なマイナンバー情報の提供、被扶養者の手続に必要な住民票(被保険者が世帯主の場合に限る)、または戸籍謄本などの添付書類が準備していただければ、優先して電子申請を行うようにしています。電子申請の場合、事務センターに直接データを送信しますので、不備等ない限り、通常7日程度で健康保険被保険者証が事業主宛に郵送されてくるようです。
「健康保険被保険者資格証明書交付申請書」の交付手続は、上記のような準備の煩雑さと、マイナンバーを記入した用紙(資格取得届など)を年金事務所へ持参して移動するというリスク、そして新型コロナウイルス対策などの観点から、当事務所ではできうる限り削減しているところで、電子申請での対応を促進して、いち早い健康保険被保険者証交付をめざしております。電子申請は土日祝日なども送信することは可能です。